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よいではまいか

日日と感覚と琵琶が

牛の世界

牧場にいったんですね。
電車で1時間半、バスで20分、徒歩30分。
言われるがまま、ずいぶんな山奥に追いやられていました。しらぬまに。

その牧場はひろくまるい野っぱらでした。
野っぱらに、低い柵と、ちょいと古ぼけてそれらしいおもむきの、畜舎やらソーセージ工房やらが植えつけられて、あとから足したように、ブルドーザーやらヒツジヤギニワトリポニーロバウマウシアヒルモルモットやらやらがうまいこと配置されたような、そういう牧場でした。
デスク上のライトみたいに近い日射しを受けて、肥料をたっぷり含んだ土が、もうもうとにおいたっていました。
遊びにきている人たちは案外ちらほらいて、暑い暑いヒツジさんかわいいねえきゃあきゃあという声はそこかしこで鳴っていましたが、建物の外でそれらしく働いている人のすがたはふしぎなほどありませんでした。
無人の遊園地で回るメリーゴーラウンドに乗せられたようなここちがしました。
そういう牧場でした。


わたしと友人が、おおよそひと巡りし、ハエや熱っぽい牧場のにおいに慣らされたころ、牛舎をみつけました。
入り口は開け放たれ、「なかでさわがないこと・鼻をつままないこと」など簡素な注意書きが添えられているばかりでした。
わたしたちは、まあよかろうと、誰にも告げず、牛舎に入りました。

牛舎はトンネルのようにほの暗く、出口の光が内部を照らしていました。
わたしたちはまっすぐ、光を目標に進みました。
両側に、ウシがいます。
ウシたちは昼下がりのせいか、けだるげに膝を折りまるまっていました。
よそ者が侵入しているにもかかわらず、ウシたちは一瞥くれ、尾っぽを遊ばせ、ずんぐりした状態を保っていました。
置物のような運動量なのに、わたしたちは息苦しいほど、圧迫されていることに気づきました。
皮膚の一枚外側が、内部へ内部へからだを押し込めたがっているような圧力でした。
異物が押し流されるようにして、わたしたちは自主的に、あるいは圧倒的な強制力によって、牛舎から吐き出されました。

牛舎の外で呼吸をしたら、むわりと土くささが肺に溜まりました。
その空気は、牛舎のなかにはない、ほがらかさをたたえていました。


牧場で食べたジェラートはすばらしく乳の味でしたよう。




もりや
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